
頭痛と一口にいっても、くも膜下出血のような危険な頭痛から肩こりからくるものまで、さまざまな種類があります。
基本的には、頭痛は症候性頭痛(急性頭痛)と機能性頭痛(慢性頭痛)に分けられます。このうち、危険な頭痛が含まれるのは、症候性頭痛です。これは、体や脳の異常から来る頭痛です。
「突然に」、「今までに経験したことのない頭痛」が起こり、重症でぐったりした感じがある時は要注意です。マヒ、視力の障害、けいれん(ひきつけ)、ボケを伴う頭痛など頭痛以外の症状にも気をつけましょう。こうした場合は、ただちに病院を受診するか、状態によっては救急車を呼ぶ必要があります。くも膜下出血や髄膜炎、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍など、命にも関わる怖い病気が潜んでいることがあるのです。
くも膜下出血は、脳の動脈瘤が破裂して起こる病気です。普通は40歳以降の発症です。突然バットで殴られたような激しい頭痛が起こります。頭痛を訴えると同時に意識を失った場合は、脳出血や脳梗塞など脳卒中の危険もあります。脳卒中では頭痛と同時に手足のマヒやケイレン、ロレツが回らなくなる、めまいや吐き気、意識障害などの症状を伴うこともあります。症状は、脳のどの部位 で脳梗塞や出血が起きたかで異なります。吐き気や嘔吐は慢性頭痛でも起こりますが、急激な頭痛に随伴症状がある時は、要注意と考えておくべきでしょう。こうした場合は、躊躇せずに救急車も含めて、大至急病院のできれば脳神経外科か神経内科を受診することが大切です。
また、発熱と同時にこれまで経験したことがないようなひどい頭痛が起こってきた 場合は、髄膜炎が考えられます。病原体が脳に入り込んで起こる病気で、一見ひどいカゼのようにも見えます。髄膜炎や脳の膿瘍の場合は発熱と激しい頭痛とともに、吐き気や嘔吐、光がまぶしい、けいれん、意識の混濁が起こることもあります。
この他、頭を強く打ったあと1~2カ月して慢性的な頭痛やボケ症状が出てきた場合には硬膜下血腫、頭痛や嘔吐とともにマヒや視力の低下、視野の障害、ものが二重に見えるなどの症状が数週間で進んできた場合には、脳腫瘍の疑いもあります。脳腫瘍の頭痛は、朝方に起こるのも特徴です。
これに対して急性の頭痛でも、カゼの頭痛や、カゼに伴い眉間のあたりが痛むのは急性副鼻腔炎(蓄膿症)、顎の関節付近が痛む時は顎関節症、二日酔いの頭痛などがあります。重い荷物を持ち上げるなどいきんだ拍子にぼんのくぼが痛む時は、無理な姿勢で仕事をした際の緊張型頭痛であることも多いものです。これらは、心配のない急性頭痛といっていいでしょう。ただし、素人判断は禁物です。急性の経験したことのない痛みの場合は、一度専門医を受診してみるべきです。
また、緑内障による急性頭痛は、眼が真っ赤になって眼が激しく痛みます。命には関わりませんが、治療が遅れると失明の恐れもありますから、この場合はただちに眼科を受診しましょう。
これに対して、機能性頭痛はいわゆる頭痛もちの頭痛です。命に関わることもなければ、後遺症を残すこともありません。しかし、慢性的に頭痛を繰り返すため、日常生活の支障が大きいのが辛いところです。成人の4人に一人が頭痛持ちであるという調査結果 もあり、慢性頭痛はかなり多くの人が悩む症状です。
頭がズキズキ痛むタイプの頭痛です。緊張型頭痛についで多く、寝込んだり、仕事ができないなど生活への支障も大きく辛い頭痛です。男性に比べて女性に4倍も多いのですが、閉経を過ぎると片頭痛は軽くなるか、消えてしまいます。
片頭痛は、5人に一人くらいの人に「前兆」が現れるのが大きな特徴です。突然、視野の中にギザギザの閃光が現れ、だんだん広がっていきます。これを、閃輝暗点といいます。20~30分もするとギザギザは消えていきますが、それと同時にズキンズキンという拍動性の頭痛が始まります。人によっては、体のむくみや眠気、生あくび、食欲増進などその人なりの予兆があるという人もいます。
激しい頭痛で吐き気や嘔吐を伴う事も多く、寝込むほどひどいこともあります。頭痛は治療しないと4時間から72時間、平均すると半日前後続きます。こうした頭痛が月に数回、多い人では週に一度起こることもありますから、日常の障害が非常に大きいのです。
原因はいろいろ考えられていますが、最近はセロトニンという神経に情報を伝える化学物質が深く関係するとされています。血管説によると血小板からセロトニンが大量に血液中に放出されることが原因とされています。その結果、脳の血管が収縮し、この時閃輝暗点が起こると考えられています。20分もすると逆にセロトニンは分解されて排出され、今度は血管が異常に広がってしまいます。その結果 、血管の周りの神経から血管に血管を広げる物質が放出され、血管の拡張と炎症が続き、ズキンズキンという拍動性の頭痛が長く続くというわけです。
片頭痛のきっかけ(誘因)としては、ストレスや環境の変化あるいは食べ物や睡眠などが関係することがわかっています。
たとえば、食べ物ではチョコレートやチーズ、化学調味料(グルタミン酸ナトリウム)、カフェインの取りすぎ、乳製品や漬物が誘因になることもあります。アルコールは、約3割の人で片頭痛を誘発するという報告もあります。中でも赤ワインが要注意です。睡眠不足はもちろんですが、寝過ぎも誘因になりますから注意してください。女性の場合は、生理周期に連動します。このような方は妊娠中に片頭痛が起こりにくくなります。
こうした誘因は人それぞれですが、いつどんな時に片頭痛が起こるのか、その前日に何を食べたかなど、頭痛記録に書き留めてみると、わかってくるはずです。こうした誘因を突き止めることが、片頭痛対策の第一歩です。
片頭痛は、これまで自分の頭痛が片頭痛であるとわかっている人が少なく、きちんとした治療を受けている人は少なかったようです。しかし、現在は片頭痛には発作を防ぐ予防薬と起きてしまった片頭痛を治す特効薬があります。最近はトリプタン(イミグラン、ゾーミッグ、レルバックス)といって特効薬(5HT1B/1D受容体作動型片頭痛治療薬)が使えるようになりました。頭痛で生活がおびやかされるような方は我慢しないで受診してください。
片頭痛は、日常生活で誘因を避けることが発作予防の基本です。食べ物や睡眠など、自分の片頭痛を誘発する原因を見つけて、これをできるだけ避けるようにします。騒音や明るい光も片頭痛を誘発することがあるので、外出時はサングラスをかけることも予防になります。
片頭痛が起きてしまった場合は、頓挫薬が使われます。軽い片頭痛の場合はタイレノールなど鎮痛薬で対処できます。これまで病医院では片頭痛の治療にエルゴタミン製剤が使われてきました。この薬は、血管の拡張を抑えて頭痛を治す薬です。
したがって、鎮痛薬とは全く働き方が違います。この薬は頭痛が本格的になってから使っても効果 はありません。吐き気を催しやすいこと、連用により薬剤誘発性頭痛を起こしやすいなどの欠点がありました。
これに対して、2000年から日本でも認可され、治療に使えるようになったのがスマトリプタンです。スマトリプタンは、片頭痛に関連するセロトニン受容体に働いて異常に広がった血管を収縮させて、痛みを止めます。これまで、片頭痛が本格的になってしまうと治療の方法がなかったのですが、スマトリプタンの登場でやっと治療できるようになったのです。以前は注射だけだったので頭痛をこらえて病院や医院に駆け込まなければならなかったのですが、現在はイミグラン、ゾーミッグ、レルバックスの三種類の飲み薬が使えるようになりました。病院で処方を受けて薬をもらっておけば、自宅でも服用ができるようになりました。服用後、早ければ30分ぐらいしてから効果 が現れます。
また、月に何度も片頭痛で苦しむ場合は、予防薬(塩酸ロメリジンなど)で片頭痛を起こりにくくすることができます。毎日飲んでいると、片頭痛の起こる頻度が 3分の1程度に減少します。発作がしばしば起きて鎮痛剤を頻繁(月10回以上)に飲んでいるというような人は、予防薬をお勧めします。ただしこれは病医院で処方して もらう薬です。
緊張型頭痛は、日頃の注意でかなりコントロールできる頭痛です。ストレッチや運動、マッサージなどで血行をよくするようにしましょう。また、蒸しタオルで首筋や肩を温めたり、指圧も頭痛の痛みを和らげる効果 があります。
それでも、頭痛が起きたり、よくならない時には、痛み止め(消炎鎮痛剤)筋肉の緊張をゆるめる薬(筋弛緩剤)を使います。痛み止めを飲むとすぐに胃がやられる人がいますがアセトアミノフェン(タイレノールなど)は胃を荒らしにくい鎮痛剤で空腹時でも飲める頭痛薬です。胃の弱い人には朗報といえます。
ただし、どんなに優れた薬でも使い方次第です。毎日、何ヶ月も鎮痛薬を飲み続けるようなことをしていると、「薬剤誘発性頭痛」といって、逆に頭痛がひどくなってしまいます。『この頃、鎮痛薬が効かなくなった』となったら要注意です。飲まないと頭痛が起こるのではないかと不安で飲みつづける人も多いようです。鎮痛薬は上手に利用したいものです。月10回以上、鎮痛薬を飲んでしまうような方は受診をお勧めします。
群発頭痛は飲酒により必発ですから、群発期は禁酒します。頭痛発作に対しては酸素吸入(毎分7リットル以上)かスマトリプタンの皮下注射が有効です。群発頭痛を予防するお薬もありますから、群発頭痛と思われる方は受診をお勧めいたします。