
昔はただの甘えだとか、怠け者だと思われて、誰にも相談できずに我慢せざるをえないケースが多かった「うつ病」。しかし複雑化した人間関係の中で、高度な仕事やキャパシティを超える行動を要求されるストレスフルな現代では、うつ病を発症する人が急増しています。今や石を投げればうつ病患者に当たる「心の風邪」といわれ、それほど多くの人が病気と付き合っています。軽いうつ状態ならほとんどの人が一度は経験しているはずです。
こうしたうつ病患者の急激な増加と同時に病気に対する研究も進み、ただの甘えやわがままではなく、自分ではどうにもできない病気であることが広く認知されるようになってきました。治療法も進歩し、今や心療カウンセリングを受けているということは恥ずかしいことではありません。かつてほど薬剤に対する依存性などのマイナス点も軽減されています。
うつ病の一般的な症状としては、睡眠障害(入眠障害・熟睡眠障害・早朝覚醒)、摂食障害(過食・拒食)、性欲の低下。この3つが2週間以上続くと、医学的にうつ病が疑われます。
同時にメンタルな面としては、訳もなく悲しくなる、気分が沈んでしまう、不安がとれない、イライラする、趣味や外出が楽しめなくなる、集中力の低下、アルコールや買い物などに対する依存などうつ症状が現れます。また、ひどい肩こりやめまい、耳鳴り、胃腸の不快感などの継続、頭痛、脱毛、過換気症候群、慢性疲労といった、からだのみに症状が現れるケース(俗に言う「仮面うつ病」)があります。
多くのケースで、こうした心身の症状が複合的に現れています。なのにうつ状態の人は、他人から指摘されても、自分のうつをなかなか認めたがりません。そこでまずセルフチェックをおすすめします。以下の質問に半分以上当てはまったら、「軽いうつ病」かもしれません。
・よく眠れない(不眠・途中覚醒・早朝覚醒)
・食欲があまりない
・頭が重く、集中力や判断力がない
・セックスやファッションへの関心が薄れた
・自分がつまらない人間に思える
・部屋を片付けるのが面倒くさい
・便秘や下痢が繰り返し起こる
・月経が不順になった
・胸がどきどきしたり、息苦しくなることがある
「軽いうつ病かも?」と思ったら、仕事も、家庭も、人間関係も手を抜くことを心がけて。「手を抜くなんて!」と思うかもしれませんが、同僚や家族に当たり散らすよりもずっと健全な対処法です。一生懸命生きることは、素晴らしいこと。でも時には自分を甘やかすことも大切です。
ここで、自分の心を輪ゴムに例えてみてください。ずっと引っ張ったままだと、いつかぷつんと切れてしまいます。「心が疲れたな」「ストレスが溜っているな」と感じたら、まずは気のおける仲間や家族にグチをこぼしましょう。そうして、自らのストレスや精神状態をコントロールするように気を配ってみましょう。
どうしても自分の気持ちをコントロールできないときには、心療内科へ。心の病気をケアしてくれる専門医は頼りになります。もしうつ病だと診断された時は、自分がストレスをため過ぎ、心身共に疲れているのだと、素直に現実を受け入れてください。
うつ病の薬というと、「薬漬けにされる」「薬を辞められなくなる」と危惧するかもしれませんが、医学は飛躍的に進歩し、今や薬への依存性はありません。
女性の社会進出が定着すると共に、完璧主義な女性の多くがうつ病に悩まされる「スーパーウーマンシンドローム」も現代病の一つです。仕事も、恋愛も、家庭も、育児も、何もかも完璧にこなそうとがんばり、壁に当たったところで燃え尽きてしまい、ダウンしてしまう病気です。
女性にとって仕事も家庭も大切です。でも全てを完璧にこなすことができる人はいません。頑張っている途中でワケもなく涙が流れたり、寂しく感じたりと気持ちのコントロールがうまくいかなくなったら、「もしかしたら、自分はうつ病なのかも」と疑ってみましょう。
ここで、うつ病になりやすい人の性格をあげてみると……
・甘えや依存性の強い人(若い人の場合)
・生真面目で仕事熱心な人
・自分に対する評価が気になる人
・環境の変化になじめない人
・人の失敗に厳しい人
など
思い当たる人は、気をつけてくださいね。
もし、自分がうつ病だと思ったら、一人でうつうつとしているより、思い切って病院にいったほうがハッピーです。心療内科では体の症状に対する内科的治療と、その症状を招いている心に対する心身医学的な治療の両方が同時に行われます。具体的には、薬物治療とカウンセリングなどの心理療法を併用して進めていくということになります。
カウンセリングのやり方は、悩みやストレスをその人自身が自分の力で解決していこう!と思うまで、医師やカウンセラーが専門的な知識や技術でサポート。これは人生相談とは異なります。つまり、治療上必要な情報を聞きながら、その人の心が抱えている問題の原因を突き止め、気持ちの整理の手助けをしてくれるのです。
具体的な質問例をあげてみると、「なぜそのことが気になって仕方がないのですか?」「他に困っている症状はありますか?」「いつ頃から続いているんですか?」「普段の生活はどんな感じですか?」などなど。
こうした問いかけに、患者さんが答えようとすることで気持ちの整理を計り、問題をきちんと受け止められるようにしてくれます。
このように、治療は二人三脚で進められていくので、カウンセラーや医師と患者の間には、確固たる信頼関係が生まれてきます。

最後にもう一度言いますが、うつ病は怠けや甘えなどといった性格の問題ではなく、れっきとした病気です。自分はもうだめなんだ、自分はだらしのない人間なんだ、と思い込まないでください。うつ病は心の風邪。病気だから治ります。悪化しないうちに、自分の心と体をいたわってあげてください。それがあなた自身の幸せであり、あなたを取り巻く人々の幸せでもあります。
うつ病は、簡単な怪我や病気と違いすぐに治るものではありません。焦らず、ゆっくりと、病気と共存するつもりでじっくりと付き合うと、いい方向に進んでいきます。