骨粗鬆症
こんな人に多い病気です

年をとると、腰痛や背中の痛みなどを訴える人が増えてきます。とくに閉経後にこうした痛みがある場合、考えなくてはならない病気のひとつが、骨粗鬆症です。
骨粗鬆症は、簡単にいえば骨がやせて骨折しやすくなる病気です。今や、患者数は1000万人を超えると言われていますが、その大多数が閉経後の女性です。これは、骨粗鬆症が女性ホルモン、とくにエストロゲンの欠乏と深く関係しているからです。
したがって、女性は閉経を迎えれば、だれでもある程度骨の量(骨密度)が減少してきます。その結果、骨量が若い時の平均値の70%以下になった状態が骨粗鬆症です。こうなると、ちょっと尻餅をついたり、転んだ拍子に手を付いただけでも簡単に骨折するようになります。しかし、閉経後の女性がみんな骨粗鬆症になるわけではありません。
ある程度は遺伝的な素因も関係しているとみられるので、家族に骨粗鬆症の人がいる場合は一層注意が必要です。また、太った人よりはやせた人、ストレスの多い人などのほうが骨粗鬆症になりやすい傾向があります。
そして、さらに大事なのは日常生活です。カルシウムの摂取不足や運動不足なども骨量に大きく影響します。また、若い時にどれだけ骨量があったか、つまり丈夫な骨を作っておいたかが、年をとってから大きくものをいうことになります。最近の日本人は、長生きで閉経後の人生が長くなる一方、運動不足が増えています。食生活も豊かになりましたが、そのなかでいつも不足気味と警告されているのがカルシウムです。そのうえ、若いうちから無理なダイエットで栄養のバランスを崩している人も多くなっています。そういう意味では、骨粗鬆症が激増しているのも、当然なのです。
骨粗鬆症による骨折、とくに足の付け根の骨折(大腿頸部骨折)は、寝たきりやボケの大きな原因になります。年をとって元気な生活を送るためには、骨粗鬆症の予防と治療が非常に大事なのです。
なぜ骨粗鬆症になるのでしょうか
閉経によって、エストロゲンが欠乏すると なぜ骨がやせてくるのでしょうか。
一見変化がないようにみえる骨も、新陳代謝を繰り返しています。古い骨を溶かして処理するのが破骨細胞、そのあとに新しい骨を形成するのが骨芽細胞です。この2種類の細胞がバランスよく働くことで、骨は一定の強度を維持しているのです。
ここで大切な働きをしているのが、エストロゲンです。エストロゲンは破骨細胞の働きを抑え、骨の形成を促進する方向に働いています。そのため、閉経によってエストロゲンが欠乏すると、骨の破壊が再生を上回るようになり、骨量が減少してくるのです。
これまでの調査によると、骨量の減少は閉経から5年間、とくに最初の2年間が一番激しいと言われています。この間に2割近く骨量は減少するという報告もあります。
つまり、誰でも年をとれば骨量は減少していくわけですから、その出発点、つまり若い時の骨量が非常に重要になるのです。
また、バセドー病や慢性関節リウマチなどの病気、ステロイド剤なども骨粗鬆症の原因になります。太っている人のほうが骨粗鬆症になりにくいのは、骨に負担がかかって鍛えられることが理由のひとつです。また、太った人は閉経後も肥満細胞でエストロゲンが作られるので、その影響も見逃せません。ただし、閉経後の肥満は乳がんをはじめさまざまな病気の危険因子です。決して、肥満が予防対策にならないことは覚えておいてください。
こんな症状があらわれます
骨粗鬆症の場合、骨折して痛みが現れるま でほとんどの人が気付かないようです。
50~60歳代でまだ元気な人ならば、転んだ拍子に反射的に体を支えようと手が出ます。それで、手首を骨折することも多いのです。さらに進んでくると、背骨が自分の体の重みでつぶれてくることがあります。これが、圧迫骨折です。胸から腰にかけて背骨に骨折が起こることが多く、そのために背中がくの字型にまがってきます。
もちろん、骨折の痛みもつらいものですが、この痛みは1~2カ月で治まってきます。しかし、体がくの字になってしまうと、あお向けに寝ることも難しくなりますし、内臓が圧迫されて、深く息を吸うこともできなくなります。胃も圧迫されて胃酸が逆流しやすくなり、胸やけなどの原因にもなります。つまり、骨折がつらいだけではなく、さまざまなところで不調が出てくるのです。
そして、高齢になれば転んだ拍子に大腿骨を骨折し、寝たきりからボケが始まることもあります。
つまり、骨粗鬆症は骨折という症状が現れる前に見つけて、骨量の増加をはかることが理想なのです。
こんな検査で診断します
今は、地方自治体で40歳以上の女性を対象に骨密度の測定が行われています。この時に行われるのは、超音波で足のカカトの骨の骨密度を測定する方法が中心です。検査装置の中に足を入れるだけですから、全く痛みなどの心配はありません。
骨粗鬆症を未然に防ぐためにも、この検査を利用するといいでしょう。
病院ではより精密な方法として、DXA法という検査を行います。これは放射線を照射して背骨や股関節の骨密度を測定する方法です。
また、骨の代謝マーカーを測定する方法もあります。この場合は、尿の中に排泄された物質を目印に骨の破壊が進んでいるかどうかをみます。この値が高ければ、どんどん骨の破壊が進んでいることを示しています。
こんな治療法があります
骨粗鬆症の場合、まず基本になるのは食事 と運動です。
食事と運動
食事は、カルシウムの摂取量を増やすようにしましょう。日本人の場合、1日に必要なカルシウムの量は600mgとされていますが、これより少ない人がかなり多くいます。閉経まではまず、1日600mg以上はカルシウムをとること、閉経後は1日1000mg以上が必要です。そして、骨粗鬆症になってしまった場合は、1200mgが推奨されています。
これだけの量をとるのはなかなか大変ですが、牛乳や小魚、ほうれん草、ひじき、大豆製品などを組み合わせてうまくとるようにしましょう。牛乳に含まれるカルシウムは吸収されやすいのですが、カロリーが高いので和風の惣菜をうまく取り入れることが大切なのです。
また、タンパク質やビタミンC・Dも骨の強化には大切です。そういう意味では、やはりバランスのよい食事が基本なのです。
同時に、骨を鍛えるという意味で運動も大切です。動物実験では、カルシウムを十分にとって運動をした時に一番骨量が増えるというデータが出ています。また、無重力状態で生活する宇宙飛行士は1カ月宇宙にいるだけで数%、入院してベッドに寝たきりでいると6週間で2~3%骨量が減少すると報告されています。
とくに、専門家が推奨するのは散歩です。 日光を浴びるのでビタミンDの合成も促進され、ストレスの解消にもなるからです。また、筋肉を鍛えることで骨折の引き金になる転倒を予防する効果も期待できます。年齢や体調にもよりますが、1日30分くらいは歩きたいものです。
薬物療法
検査で骨粗鬆症と診断された場合は、食事 や運動に加えて薬物療法が必要になります。薬は、骨量の減少を抑えて、さらに少しでも骨量を増やすことが目標です。幸い、ここ数年の間に、かなり効果が期待できる薬が開発 されています。
ホルモン補充療法
骨粗鬆症の基本的治療薬です。女性ホルモンを外から補充することで、更年期障害の治療にも使われています。骨粗鬆症だけでなく、閉経後に増加する高脂血症や動脈硬化の進行を抑えることができるのも長所です。皮膚の色つやなども良くなるといわれています。
ただ、閉経して10年も経過すると骨量の減少もだいたい落ち着いてくるので、60歳くらいで中止することが多いようです。
乳がんや子宮内膜がんなどのリスクが数%上がるという報告があること、また閉経後にまた出血があることがうっとおしいという人もいます。
ビスフォスフォネート
数年前に開発された薬で、現在骨粗鬆症治 療の主流になりつつあります。
この薬は破骨細胞の働きを抑える作用があり、骨量の減少を抑えるだけではなく、年に3%くらい骨量 を増やすこともできます。ステロイド剤による骨粗鬆症の予防にも有効であると報告されています。副作用として、胸やけや下痢、吐き気などが報告されています。海外では、さらに作用が強く、骨量を年に 5%ぐらい増量する新薬も開発されており、日本でもその認可が期待されているところです。
これまで、薬によって骨量の低下を防ぐことは可能でも、増やすことは難しいといわれていたのですが、この薬の登場で再び骨を丈夫にすることも不可能ではなくなってきたのです。
その他
このほか、カルシウム製剤や活性型ビタミンD、ビスフォスフォネートほど強力ではありませんが、やはり破骨細胞の働きを抑えるカルシトニン(甲状腺で作られるホルモン)、植物性エストロゲン(イソフラボン)の誘導体であるイプリフラボンなどがあります。イプリフラボンも破骨細胞の働きを抑えますが、エストロゲンとしての働きはそれほど強くなく、したがってホルモン補充療法のような副作用はないようです。
状態に応じてこうした薬が使い分けられています。
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