不眠症
不眠症のタイプ

床に入ってもなかなか寝つけない、夜中にふと目が覚めて、そのあとずっと眠れないで床の中でもんもんとしているなど、不眠に悩んでいる人は、決して少なくないはずです。
成人を対象とした最近の調査(平成9年・日常生活における快適な睡眠の確保に関する総合研究)によると、何と日本人の5人に一人が不眠を抱えていると報告されています。しかも、その率は歳をとるほど高くなります。つまり、不眠は今や日本人の国民的な病気といってもいいほど、蔓延しているのです。その背景には、現代人の夜型の生活や交代勤務などによる不規則な睡眠時間も影響しているといわれています。
実際には、眠れないといっても原因はいろいろです。体の病気が原因のこともあれば、うつ病など心の病気が不眠という形で現れてくることもあります。治療のために飲んでいる薬が原因で起こることもあります。睡眠時無呼吸症候群のように、本人には不眠の自覚がなくても日中強い眠気が起こる病気もあります。
しかし、一番多いのは原発性不眠症とか神経症性不眠症といわれるタイプの不眠です。誰でも、心配事があったり、ちょっとした生活リズムの狂いで眠れないことはあるものです。ストレスや心配ごとは、交感神経の緊張を高めて、眠りを妨げます。ところが、几帳面な人や神経質な人では、これが一種のトラウマになってしまい、また眠れないのではないかという恐怖感や不安感が高まってしまいます。この不安感や緊張感が、不眠を慢性化 させていくことがあるのです。
また、最近の健康ブームの影響も見逃せません。不眠は健康の大敵という考え方にこだわりすぎて、それまで無意識に寝ていた人が逆に睡眠を意識しすぎて眠れなくなるということもあるのです。
こうした場合、本人は何とか眠ろうと努力しているのですが、それが間違った努力であることも少なくありません。睡眠に対する正しい知識を持ち、生活習慣をあらためたり、眠りやすい環境作りをすれば、それだけで不眠が解消されることも多いのです。
不眠のパターン
眠れないという場合、大きく分けて3つのパターンがあります。床についてもなかなか眠れないのが入眠障害、夜中に目が覚めてその後なかなか眠れないのが中途覚醒、朝早く目が覚めて困るというのが早朝覚醒です。入眠障害は若い人から高齢者まで年齢にかかわりなくみられますが、中途覚醒と早朝覚醒は高齢者に多い傾向があります。
ストレスや心配ごとによる一時的な不眠、あるいは本態性の不眠症には、入眠障害がよくみられます。年をとるにつれて中途覚醒や早朝覚醒が増えるのは、一種の生理現象でもあります。高齢になると、眠りのリズムも若い頃とは変わってきますから、その影響で目覚めが早くなるのです。朝早く目覚めても、それを苦痛と感じずに、明るくなったら散歩をするなど時間を上手に利用することが大切なのです。
不眠に対する誤解
不眠、とくに原発性不眠症の大きな原因が眠りに対する誤った考え方です。
睡眠時間にこだわらない
健康のためには、8時間は眠る必要がある。そんなふうに思い込んではいないでしょうか。それが、不眠という自覚になっていることもあるのです。実際には、睡眠時間には個人差があり、季節や年齢によってもかわってきます。健康な大人の平均的な睡眠時間は7時間ぐらいですが、これにこだわる必要は全くないのです。日中、ひどい眠気がなく、日常生活に支障がなければ十分。体が要求する以上の睡眠時間をとろうとすることが、不眠につながるのです。本当に眠くなれば、自然に眠ってしまうものです。
早めの就寝は不眠のもと
明日は早いから、今日は早く床につこう。そう考える人は多いはず。しかし、これも間違いです。むしろ、いつも眠りに付く時間の2~4時間前の時間帯は一番眠りにくい時間帯だと言われています。
睡眠リズムの基本は、寝る時間ではなく起きる時間なのです。人間には、眠りと覚醒のリズムがあります。このリズムを刻んでいるのが体内時計です。この体内時計は、朝起きてから14~16時間後に眠りの準備を始めます。つまり、起床時間を元に眠る時間を決めているのです。
そして、この体内時計のリズムを合わせるために大切なのが、早起きと朝の光なのです。人間の体内時計は、本来24時間より30分から1時間長いリズムで刻まれています。だから、昨日より遅い時間に寝るのは簡単なのです。これを放っておけば、眠る時間はどんどん後ろにずれていってしまうはずです。これを、引き戻して調整しているのが、朝の光なのです。
朝起きて、光を浴びると体内時計がリセットされ、その時間からまたリズムを刻み始めます。そして、14~16時間後にはまた眠りの準備が始まります。
ですから、早寝の習慣を付けたければ、まず朝早起きして光を十分に浴びることが大切なのです。なかなか寝つけないという人は、最初は大変でもまず早起きして、朝の日光を浴びるようにしましょう。
昼間は十分に活動を
高齢になると、朝早く目覚めたり、途中で何度も目覚める人が多くなります。トイレが近くなったり、背中や腰の痛みもその原因ではあります。
しかし、歳をとると睡眠のリズムも変わってくるのです。まず、朝起きてから眠りの準備に入るまでの時間も若い人より長くなってきます。これが、早朝覚醒の原因になるわけです。また、体内時計が刻むリズムも弱くなり、昼夜のメリハリも弱くなってきます。そのために、眠りが浅くなり、途中で目が覚めてしまうのです。
これは、生理的な現象でしかたがないことです。これを補うには、日中十分に活動することも大切です。日中の活動量が少なくなると、若い時ほど夜間にエネルギーを蓄える必要もなくなってくる。つまり、睡眠もあまり長くは必要なくなってくると考えられているのです。
したがって、日中はできるだけ活動的に過ごし、日光を十分に浴びて、昼夜のメリハリを付けることが必要なのです。
ちなみに、お昼寝は20分から30分ぐらいが適当といわれています。それも、夜の睡眠を邪魔しないためには、午後3時頃までにとるのがいいとされています。
寝酒は中途覚醒の原因

日本人は、睡眠薬を飲むよりはアルコールを飲んで寝る方が体にはいいと考える傾向があるようです。
確かにアルコールは適量ならば、心身をリラックスさせる効果があります。しかし、寝酒はいけません。アルコールには、睡眠薬と似た作用があり、短時間でグッと深い眠りに入ることができます。しかし、アルコールが切れると夜中に目覚め、その後は眠れなくなってしまうのです。ここで、さらに飲酒をすれば、アルコール依存症への道を突き進むことになります。
コーヒーや紅茶、緑茶などカフェインを含む飲み物も、寝付きが悪い人は夕食後は避けた方が無難です。カフェインには覚醒作用があり、その効果は4~5時間続きます。とすると、眠りを妨げる原因になりうるのです。
眠れないという人は、まずこうした注意を守ってみましょう。それと同時に、眠れるような環境作りも大切です。昼間は、交換神経が緊張し体も脳も緊張状態にありますが、眠りは心身の休養時間。交換神経の緊張がゆるめられて、眠りに入っていきます。これを促進する意味でも、自分なりのリラックス時間を設け、心身の緊張をほぐしてあげましょう。
入浴は、心身の緊張をゆるめるいい方法でもあります。赤ちゃんが眠くなると手が熱くなるのは、眠りの準備が始まった印です。体内の熱を放出して脳を休息させようとするのです。大人でも同じことが起きています。ゆっくりとぬるめの湯に入って体温を高めておくと、体温が下がる時に熱の放出が促進されて、心地よく眠りに入っていけるのです。
眠りを妨げる病気

体や心の病気からも、不眠症が起こることはあります。うつ病やパニック障害、統合失調症など心の病気やぜんそく、慢性閉塞性肺疾患、アトピー性皮膚炎によるかゆみ、更年期障害、高血圧、糖尿病による喉のかわきや神経痛などが不眠を起こしていることもあるのです。
さらに、最近注目されているは、眠りじたいの問題です。仕事や家事も満足にできないほど、日中眠気が強い場合はとくに、注意が必要です。必ずしも本人に病気の自覚があるわけではないので、周囲の人間も眠りの状態に注意してみましょう。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠中に上気道、つまりのどが塞がって何度も呼吸が停止するのがこの病気です。そのため、会議中に寝てしまう、赤信号で止まっている間に寝てしまったなど、日中強烈な眠気に襲われます。以前は、だらしがない、怠慢だなどといわれ、本人を苦しませてきましたが、最近ようやく一般にも知られるようになってきました。
大きないびきや夜間の中途覚醒、目覚めたときにのどが乾くなどの症状があります。疲れたり、お酒を飲むと大きなイビキをかくことがありますが、朝まで大きなイビキをかいていたり、苦しそうにイビキをかいている場合は要注意です。寝ているあいだに舌が落ち込んでノドを塞ぐのが原因で、肥満やアゴの発達が悪い人に多くみられます。
睡眠の質が非常に悪いため、日中イライラしたり、集中力が低下して事故などの原因になるだけではなく、高血圧や虚血性心疾患、脂質異常症(高脂血症)、脳梗塞などの合併症を引き起こすとも言われています。本人は、昼間眠気が強い、熟睡感がないといった感覚はあっても、夜間のイビキには気づいていないことも多いので、周囲が気づいてあげることが大切です。
現在は、睡眠中にのどを押し広げる方法など、いろいろな治療法がありますから、睡眠の専門家を受診することが大切です。
周期性四股運動障害・むずむず脚症候群
最近、注目されるようになった症状です。むずむず脚症候群は、夜床に就くと脚がムズムズしたり、痛むなど不快感があってじっとしていられない状態です。動かすとよくなります。これが、入眠障害の原因になったり、中途覚醒を起こすことになります。原因はまだよくわかっていませんが、脳の神経細胞から神経細胞に情報を伝えるドーパミンなどの神経伝達物質に関係しているとみられています。鉄欠乏性貧血や人工透析の人に多いことも知られています。
このむずむず脚症候群に合併することも多いのが、周期性四肢運動障害です。こちらは、夜睡眠中に足首がそるような運動が繰り返して起こるものです。そのために、中途覚醒の原因になります。明け方には納まりますが、疲れた時などに出やすいことがわかっています。
いずれも、薬物療法でかなり症状はコントロールできるようになっています。
ナルコレプシー
過眠症の代表的な病気です。夜間は眠っているのに、日中耐えがたい眠気に襲われ、発作的に寝てしまったり、居眠りをします。デートの最中や車を運転しているさなかでも発作的に眠り込んでしまうことがあります。さらに、笑ったり騒いだり興奮している時に、突然筋肉の力が抜けてしまうのが特徴です。瞬間的な脱力ですぐに回復しますが、ヒザの力がガクンと抜けたり、顎の力が抜けるなど程度はさまざまです。
この他、睡眠のパターンが変化して、眠るといきなり怖い夢をみたり、金縛り(睡眠麻痺)が起きたりすることもあります。原因はまだよくわかっていませんが、多くは規則正しい生活や薬の服用で社会生活を送れるようになります。
概日リズム睡眠障害
睡眠のリズムが崩れて起こる障害です。現代社会特有の睡眠の乱れともいえます。
海外旅行などで経験するいわゆる時差ボケも、このひとつです。交代勤務などで一定のリズムで睡眠時間がとれないと、時差ボケと同じような状態になります。時差ボケはやがて現地時間に体が順応して解消されますが、この場合は慣れることがないのが問題です。寝つけない、夜間何度も目が覚めるなど睡眠の障害が現れ、めまいや下痢など自律神経の失調症状もよく起こります。24時間活動する現代社会の問題点ともいえる障害です。
さらに、若い人や子供に増えているのが「睡眠相後退症候群」です。簡単にいえば、夜更かしが習性となってしまい、極端に遅くならないと眠れない状態です。早く眠ろうとしても明け方にならないと眠れなくなり、学校や仕事に行くために起きようとしても、昼近くならないと起きられなくなります。無理に起きると、日中激しい眠気に襲われることになります。
会社や学校に行けない、欠席が多くなるなど社会生活に大きな障害をもたらします。夏休みに、好き勝手な生活をしたあげくこんな状態になってしまうこともありますが、こうした睡眠障害になる人は、小さい時から夜型の生活をしていた人に多いとされています。最近では生まれつき夜型の人と朝型の人がいることもわかってきました。治療には時間と本人の意欲が必要です。こうした障害を防ぐためにも、休みだからとだらけないで、規則 正しい生活を心掛ける必要があるのです。
Q&A