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アルコール依存症

アルコール依存症とは

 日本では、アルコール依存症というと特殊な人がなる病気といった目で見られがちです。しかし、その定義を聞くと決して私たちの日常からかけはなれた病気ではないのです。

 体調が悪いので酒量を減らしたいと思いながら、それができないという人は、決して少なくないはずです。酒の上で何度も失敗を繰り返しながら、酒をやめられないという人もいます。これも広い意味ではアルコール依存症といえるのです。
 アルコール依存症の研究や治療で知られる国立療養所久里浜病院では、わかりやすく2つの定義をあげています。
 ひとつは「連続飲酒」です。具体的にいうと一日中体にアルコールが入っている状態が2日を越えて続く場合です。どこからアルコール依存症とするかは、アルコールに対する寛容度によって国によって違います。この点、日本は割合甘くて、週末の2日間ぐらいは酒を飲みつづけていても、何とか許容されます。しかし、それが月曜日まで持ち越されると許容範囲を逸脱してしまいます。つまり、飲酒のコントロールが効かなくなり、社会でも家庭でも受け入れられないような状態で酒を飲みつづけることが依存症なのです。
 もうひとつは、身体的依存、アルコールが切れる時に現れる離脱症状です。アルコールが切れると手が震える、幻覚が見えるといった症状が有名ですが、初期症状はそんなに大げさなものではありません。たとえば、飲んだ翌朝、手にブレーキがかかったようで文字がうまく書けない、暑くもないのにやたらに寝汗をかく、ということがあります。イライラしておこりっぽい、飲まないと眠れない、あるいは飲んで寝ると悪夢をみる、睡眠中しょっちゅう目が覚める。こんな症状があれば、依存症の初期症状と考えられるのです。
 たいした症状ではないように思えるかもしれませんが、ここで手を打たないと酒量はどんどんあがり、社会的にも家庭的にも一気に破滅の道をたどることになるのです。
 この2つの条件のどちらかにあてはまれば、立派な依存症なのです。しかし、実際には社会で働いている人の中にも、依存症の予備軍の人がたくさんいると言われています。それが、冒頭にあげたように、体調不良で酒量を控えなければと思いながら飲酒にブレーキをかけられない人たちなのです。たまの飲酒でも、飲酒運転や暴力、人間関係の破綻など、アルコールで失敗する人も予備軍に入るのです。

飲酒で起こる病気

 長期に大量の飲酒を続けていると、さまざまな病気が起こります。
 肝臓はアルコールを代謝する重要な臓器。アルコール性脂肪肝を手始めに、アルコール性肝炎、肝硬変、そこから肝臓がんを発生することもあります。血液の中には脂肪がたまり、ひどくなると真っ白に血液が混濁してきます。アルコール性高血圧もそのひとつで、本態性高血圧、つまり原因不明の高血圧と診断されている人の中には、アルコールをやめると血圧が低下する人がかなりいるといわれています。さらに、痛風の原因である尿酸の上昇、慢性膵炎、糖尿病、性機能の低下、など数え上げれば切りがないほどです。脳もアルコールの障害を受けて萎縮し、ひどい物忘れや痴呆を発症します。
 アルコール依存の患者には、こうした病気がひとつではなく、いくつも重なって起きてくるのです。

依存症の発症

 では、どういうきっかけでアルコール依存症になっていくのでしょうか。
 何か特別な原因があると思っている人もいると思いますが、実際には「迎え酒」がきっかけになっている人が多いといいます。二日酔いというごくありふれた症状を迎え酒で抑えているうちに、依存症に陥っていくケースが多いのです。
 たとえば、もともと酒に強い人が、仕事上の付き合いや接待で酒量が増加。週末には家でも飲酒をするようになります。数年後には、月曜日の朝まで二日酔いが残るようになり、とにかくその苦しさが逃れたい一心で迎え酒が始まります。そうなると、会社を欠勤することも多くなります。出社しても酒臭い息をして、仕事の能率も低下。人間関係もまずくなり、出世コースから脱落。家庭でもささいなことで怒鳴りだすようになり、家族から敬遠されるようになっていきます。その寂しさ、挫折感からますます飲酒に逃げ込むようになるという悪循環が始まるのです。
 これが、ごくふつうの人が依存症におちいっていく典型的なパターンです。つまり、もともと酒に強い人が、何かのきっかけで酒量が増え、迎え酒をするようになったら、かなり危険と言えるのです。一方では、ギャンブルにのめり込んだり、金銭にルーズなど行動の抑制がきかない人に、依存症が多いともいわれています。
 どのくらいのアルコールをどのくらいの期間飲んでいると、依存症になるのか。一日2合以上の飲酒は危ないともいわれますが、これは、かなり個人差があるようです。治療のために専門病院に入院している患者さんの場合、飲みはじめて25年ぐらい、平均酒量は5~6合という報告もあります。これは、かなり重症例といっていいでしょう。前述のように依存症の定義は国によって異なり、どの程度から依存症と認識するかどうかという問題もあります。欧米のレベルでみると、依存症にあたる人が一般の日本人の中にかなりいると言われています。酒にこれなら安心といえる許容量はないと考えるべきなのです。
 そして、依存症になりやすいという意味では、女性の方が危険性は高いのです。

女性は依存症になりやすい

 アルコールを飲む女性が増えるにつれ、急速に増加しているのが女性のアルコール依存症です。女性の場合、習慣的に飲酒をするようになると、男性よりアルコール依存症になりやすいことが知られています。平均すると、同じ酒量であれば、男性より10年から15年早く依存症になると言う医師もいます。

 はっきりした原因はわかっていませんが、ひとつには体のしくみの違いが指摘されています。男性に比べて女性は血中のアルコール濃度が高くなりやすく、したがって依存症が進行しやすいといわれています。女性の体は男性より体脂肪は多いのがふつうです。ところが、アルコールは水より油に溶けにくい性質があります。そのため、アルコールが体内に入っても、女性の方が脂肪が多い分、体内に浸透しにくく、それだけ血中のアルコール濃度が上がりやすいのです。
 また、女性ホルモンがアルコールの分解を妨げることも指摘されています。つまり、女性の方が体質的に依存症に陥りやすい傾向があるのです。しかも、アルコールによる体の障害、とくに肝臓の病気は女性の方が重くなると指摘されています。実際に、アルコール依存症の患者を調べた結果、女性の方が飲酒による死亡率が高かったという報告もあります。
 女性は失恋や夫との不仲、姑問題、熟年になると夫の退職や離別、子供の自立など、喪失感や不安をきっかけに飲酒にのめり込むことが多いともいわれています。飲み方も男性のように外で飲むよりは、家の中で家族にもかくれて一人で飲酒することが多い傾向があります。これも、依存症を発見しにくく、また促進する原因のひとつではないかと言われています。
 そして、女性の場合もうひとつの特徴は、摂食障害との合併が多いことです。摂食障害とは、ダイエットなどをきっかけに食事の量がどんどん減ってやせていく神経性食欲不振症(いわゆる拒食症)や大量に食べてははきもどす神経性過食症(大食症)など、食べることの障害です。最近、非常に増えている心の病気ですが、女性のアルコール依存症の患者さんには、若い頃拒食や過食だったという人が非常に多いのです。20代、30代でアルコール依存症の女性は、7~8割、あるいはそれ以上の比率で摂食障害を持っていると言われています。  摂食障害は、簡単にいえば「飲食に対するコントロールを失った状態」です。そういう意味ではアルコール依存症も根は同じといえます。最初の対象は食べ物でも、ある程度の年齢になって飲酒を覚えると、いとも簡単にアルコール依存症になっていくのです。
 やせていれば美しい、女性としての価値がある、そうした現代社会の画一的な考え方が、摂食障害を増やしていると言われます。それが、本来の自分がもつ価値を見失うことになっていることに気づくべきなのです。  また、女性の場合妊娠中に飲酒すると、胎児性アルコール症候群といって、赤ちゃんに低体重など発育の不全や知的発達障害が現れることも覚えておきたいものです。自分の体だけではすまないのです。

アルコール依存症の予防と治療

 アルコール依存症治療の基本は、とにかく断酒、つまりアルコールを生涯にわたって絶つことです。酒量を減らせばいいのではないか、と思う人もいると思いますが、酒飲みが酒量を減らすことは極めて難しいのです。もともと依存症になる人は行動に抑制が効かない人が多いのです。しかも、お酒は酔うため、ある意味では抑制を開放するために飲むものです。4合のお酒で酔っていた人が、2合しか飲めないのでは、まだこれからという段階です。2~3日は我慢できても1週間と続かないのです。
 といっても、すでに依存症に陥っている人が自力だけでお酒を絶つのは並大抵のことではありません。そこで、通院して医師の管理を受ける、抗酒剤を使ってアルコールを受け付けないような体の状態を作る、断酒会など自助グループに入ってお互いに励まし合いながら酒を絶つといった方法がとられるのです。
 しかし、それでもアルコール依存症を克服するまでの道のりはかなり厳しいのが実情です。いったんは断酒できても、ほんの少しアルコールを口にするとまたたちまち以前の状態に戻ってしまいます。依存症に完治はないと言われる所以です。実際に断酒に成功する人も、2割ぐらいと言われています。
 しかし、予備軍の段階であればまだ後戻りはできるのです。その方法として、アルコール依存症は迎え酒をきっかけに進行していくことが多いので、二日酔いするほど飲まないことが重要です。たとえば、コップ一杯のビールを肝臓で分解するには1 時間ぐらいかかります。日本酒1 合ならば3時間ぐらいです。とすると、翌朝6時までに体からアルコールを抜いておくには、夜9時までに日本酒を3合程度までならば2日酔いにならないという計算になります。もっとも、酔いには個人差もあるので、それぞれの経験から割り出して飲むようにしたいもの。また、迎え酒をしないという意味でも、日が高いうちから飲酒しないことも必要です。
 そして、アルコールで肝臓障害を起こしている人は、まずガンマ・GTP(肝臓の機能を表す数字)が正常になるまで、お酒を絶ちます。もし、これができなければすでに予備軍の段階を越えている可能性が高いのです。そして、1カ月も断酒をするとみるまにガンマ・GTPの数値は下がってくるはずです。それと同時に、体調もよくなってくるはずです。こうした健康な体の爽快感を味わうことも大切なことです。
 さらに、3カ月断酒を続けてみましょう。1カ月では、すぐに以前のように夜は飲酒、あるいはスナックや飲食店で一杯という生活習慣に戻ってしまいます。しかし、3カ月断酒をすると、お酒がない生活リズム、たとえば夜は読書やスポーツをするとか、家族と団欒の時間を持つなど別の時間割ができてきます。体調もよくなり、家族や友人との関係、経済面でも変化が現れるはずです。それが、お酒について考えるきっかけになり、過度の飲酒習慣に歯止めをかけることにもなるのです。
 本当のアルコール依存症になってしまうと、酒を絶つには大変な努力が必要です。そして、日本は飲酒には寛容でもいったん依存症というレッテルを貼られてしまうと、社会的信用を回復するのは容易なことではありません。自分や家族が依存症に陥らないようにすると同時に、何とかアルコールと手を切ろうと頑張っている人を応援し、支えていくことにも努力していきたいものです。


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